いかにして「サービスの主要KPIを大幅改善するレコメンド機能」を生み出すか顧客事業を加速するAlgoageのプロジェクト運営の要諦。Algoage × DMM TELLER

いかにして「サービスの主要KPIを大幅改善するレコメンド機能」を生み出すか顧客事業を加速するAlgoageのプロジェクト運営の要諦。Algoage × DMM TELLER

Summary
概要

ピックアップの抱えていた課題
100万を超えるコンテンツから、いかにユーザー毎にパーソナライズしたコンテンツを推薦するか。
Algoageとの取り組み
行動ログからユーザーの嗜好を理解し、パーソナライズしたコンテンツを推薦するレコメンドエンジンを構築。要件定義からロードマップ作成等プロジェクトマネジメントから、エンジンの実装、運用まで包括的にAlgoageに依頼。
成果
サービスの重要KPI数十%増を実現

Introduction
イントロダクション

可処分時間を奪い合う──そんな戦いの主役を担う、コンテンツプラットフォーマーたち。『YouTube』や『Netflix 』、『TikTok 』といった世界的なサービスがしのぎを削るこの領域で注目を集めるサービスの一つが、ピックアップが展開する『TELLER 』だ。

2020年10月現在のダウンロード数は500万を超え、2017年7月のリリース以降、順調な成長を見せている同サービスだが、その道程は決して平坦なものではなかった。「コンテンツのデリバリーに大きな課題を抱えていた」と語るのは、同社で代表取締役社長を務める蜂谷宣人氏。その課題を解決するために選んだのは、レコメンド機能の開発という選択肢。そして、その開発パートナーとして選んだのはAlgoageだった。

同社のCTOとして開発を主導する中村智将氏と蜂谷氏に加え、Algoageで取締役CTOを務める大野峻典と同社機械学習エンジニア林佳音を迎え、レコメンド機能開発プロジェクトに関するインタビューを実施した。ピックアップはなぜAlgoageを選んだのか。そして、『TELLER』を成長に導いたレコメンドアルゴリズムはいかにして生み出されたのか。プロジェクトの裏側に迫った。

ピックアップが構築する
「内製すべきもの」にフォーカスするための、リーンな開発組織

──まず、貴社の事業内容から教えてください。

ピックアップ 代表取締役社長 蜂谷宣人氏

ピックアップ 代表取締役社長 蜂谷宣人氏

蜂谷:チャット小説アプリ『TELLER』を展開しています。デジタル小説を配信しているアプリなのですが、最大の特徴はUIです。メッセージアプリのようなUIになっていて、誰もが気軽に小説を楽しめるようになっています。

日本における小説の市場規模は1,000億円ほどだと言われていますが、そのデジタル化はアジア諸国に比べても遅れているんです。中国のデジタル小説の市場規模は3,000億円、インターネット人口が日本の半分程度だとされる韓国でも200億から300億円もあると言われています。

『TELLER』は小説のデジタル化を進め、多くの方々に気軽に楽しんでもらうためのサービスなんです。現在、ダウンロード数は500万、コンテンツ数は100万を超え、順調に成長してきていると思っています。

──大きなポテンシャルを秘める領域なのですね。事業運営上のポイントはどのような点なのでしょうか。

ピックアップ CTO 中村智将氏

ピックアップ CTO 中村智将氏

中村:少数精鋭の開発組織を維持することが一つの重要なポイントだと思います。常にコンテンツを開発し続けなければなりませんし、他のウェブサービスよりもコストがかかるサービスなので、組織は最低限のサイズにとどめることを意識してきました。

そこで重要になるのが、外注を有効活用することです。本当に内製すべきものだけに集中して、それ以外の機能は外部のパートナーと手を組み開発を進めてきました。

事業理解を伴わないアルゴリズム設計は、価値を生まない

──アウトソーシングをうまく活用し、事業の成長に結びつけて来られたのですね。Algoageもパートナー企業の1社ですが、どんな課題を解決するために手を組んだのでしょうか?

蜂谷:「いかにユーザーが求めるコンテンツを効率的に届けるか」といった課題を解決するためです。具体的には、レコメンド機能の実装と運用をお願いしました。コンテンツ数は100万を超え、ランキング形式でのコンテンツ紹介など一般的な方法を試してみたのですが、ユーザーの満足度に関わる数値が伸び悩んでいたんです。

そこで、試しに簡易的なレコメンド機能を実装したところ、ユーザーの反応が良かった。レコメンド機能を強化すべきだということになったのですが、社内にはナレッジがなかったため、社外のパートナーを探し、Algoageに依頼することになりました。

──レコメンド機能の開発を手掛けられる企業はAlgoageの他にもあると思うのですが、最終的な決め手はどんなポイントだったのでしょうか。

中村:DMM.comのCTOである松本勇気さんに相談したところ「Algoageがいいのではないか」と。信頼できるパートナーを見つけることは簡単なことではありませんが、松本さんがおっしゃるならと思いましたし、Algoageには多くの実績があったので信頼できると感じましたね。

また、上流から下流までお任せできることもかなり大きな要素でした。ウェブサービスの機能開発には3つのフェーズがあると思っているんです。1つ目は、事業戦略としてどのような機能が必要なのかといったことを考えるフェーズ。次のフェーズは、設計です。最初のフェーズで決定した目標を達成するために、どこにどんなAPIをつくるのかなどを決めていきます。そして最後は実際にモデルをつくっていくフェーズです。

アウトソーシングをする際は、どのフェーズからお任せしていいものなのか分かりづらく不安になることもあるんですよ。一方、Algoageは最初から入ってくれていましたし、提案の質もとても高かったので「全部お任せしてもいいんだな」と安心感がありました。

蜂谷:要件定義ができていない時点から、どのような配信ロジックをどんなロードマップで開発していくべきかなどプロジェクト全体の設計から相談できたんですよね。僕たちが抱えている抽象的な課題から聞いてもらえるのはとても心強かった。

──大野さんにお伺いします。レコメンド機能を実装していく上で重要になるのはどんなポイントなのでしょうか。

Algoage 取締役CTO 大野峻典

Algoage 取締役CTO 大野峻典

大野:レコメンドアルゴリズムの前段階である設計から、開発したアルゴリズムを安定的に運用し継続的な改善施策を打つための体制構築まで、トータルで考えることが重要になります。

コンテンツプラットフォームにおいて、レコメンド機能は付加価値の源泉となる重要な役割を担います。コンセプト設定から、アルゴリズム設計、そのチューニングまで多様なパラメータが存在し、作り方次第で大きく質が変わりうる。だからこそ、『YouTube』や『Netflix』、『TikTok』といった世界的なプラットフォーマーたちも、レコメンド機能の開発や改善に巨額の投資をしているんです。

「とりあえずレコメンド機能をつくってみる」だけでは大きな成果は期待できません。サービスのUXに適した機能を設計し、開発する。そして、求められるUXが変化した場合には適切にチューニングする必要があるため、設計段階はもちろんのこと、その後の運用体制まで考慮する必要があるんです。

──最初のステップである「設計」では、具体的にどんなことを考えるのですか?

大野:「誰に」「何を」「どのように」届けるのかを設計します。この設計を左右するのが、クライアントの事業戦略です。先程も申し上げたように、レコメンドアルゴリズムはサービスのUXを大きく左右する要素。事業の方向性を深く理解し、それに適した設計にしなくてはなりません。

事業KPIや、サービスのロードマップのヒアリング、KPIツリーの整理からアルゴリズムの設計は始まります。その後、ユーザー行動に関するデータを分析し、改善しうる点と改善によるインパクトを整理します。

また、定性的なユーザーの行動や気持ちを理解することも重要です。「こういったユーザーはこのコンテンツを読んだら、こんな気持ちになるだろう」といったように、ユーザーセグメントごとに“気持ち”を整理します。そして、これらの分析を踏まえて「誰に」「何を」「どのように」といった変数を設定していくんです。

共にアルゴリズムを改善し続けるための体制をつくる

──運用のフェーズはどのように進んでいったのでしょうか。プロジェクトを進める中でのポイントがあれば教えてください。

ピックアップ 代表取締役社長 蜂谷宣人氏、ピックアップ CTO 中村智将氏

中村:定例ミーティングが重要だったと思います。Algoageが持ち込んでくれる提案資料の質がとにかく高いんです。僕たちが欲しいと思う情報が綺麗に整理されていて、Algoageが推す打ち手を含め、いくつもの選択肢を提示してくれ、あとは僕たちが判断を下すだけといった状態にしてくれている。正確な意思決定を下すための判断材料を毎回提示してくれるのは、プロジェクト推進上とても助かりましたね。

また、SlackやZoomを使ったコミュニケーションも円滑で、社内の同じチームで働いているような距離感で進めていけるのが、とてもやりやすいですね。

蜂谷:こちらのふわっとした要望を元に、どれくらいの工数感でどういったインパクトを期待できるかを解像度高く整理してくれるんです。そういった分析をベースにプロジェクト全体の設計をし、進行してくれるのでとても安心感がありました。

プロジェクトマネジメントのコストが一切かからないことも、とてもありがたい。基本的には、大野さんがプロジェクトマネジメントから開発まですべてハンドリングしてくれるので、成果が出るまでのプロジェクト進行を任せっきりにできたことはかなり大きなポイントだったと思います。

また、長期的にコンテンツ配信ロジックの質を改善し続けるための基盤作りに関して提案頂いたことも、とても助かりました。『TELLER』はコンテンツを配信するサブスクリプションサービスなので、ユーザーに長く使ってもらうことが重要。サービスの成長に従いコンテンツの数も増えますし、ユーザーの動向も変化していくため、ロジックを改善し続けること大切なんです。

──共にプロジェクトを推進する中で、苦労することはありませんでしたか?

中村:特にありませんでしたね。ABテストを繰り返しながら改善を進めていく中で、当然打った施策がうまくいかないこともありましたが、それは想定内。プロジェクトのKPIの改善に向けて、Algoage主導で施策の結果を踏まえた分析をし、仮説立てから改善案を提案してくれますし、必ず次に繋げてくれるので安心してお任せできたと思います。

また、その提案もこちら側の事情やスケジュール、サービスの状況を考慮したものだったのでとても助かりました。「僕たちは今こういう風に開発を進めているから、それに合わせてほしい」と言えば柔軟に調整してくれますし、既存のシステムと繋ぎ込みやすい形で新システムの設計レベルから機能を提案してくれるので、開発は進めやすかったですね。

たとえば、レコメンド結果をシステムとして最終的にどうユーザーまで届けるかを設計する際は、既存のアーキテクチャにいかに当該の機能を組み込み、どのような形式のデータをやりとりするかまで提案してくれました。テストの難易度を下げることなど、多角的に「開発・運用のしやすさ」に気を配ってくれるのでかなりやりやすかったですね。

──運用フェーズでAlgoageが重視していたのはどのようなことですか?

Algoage 機械学習エンジニア 林佳音

Algoage 機械学習エンジニア 林佳音

:1つ目は、実際のユーザー行動を見て、その行動に応じたアルゴリズムを開発することです。優れたレコメンドアルゴリズムをつくるためには、常に正しくユーザーの嗜好を捉える必要があります。その嗜好を知るためにはさまざまなデータを分析しなくてはなりませんが、その分析も単純なものではないんです。

たとえば、「コンテンツをクリックしたこと」を「このユーザーはこのコンテンツが好きだ」と単純に解釈してしまうと、判断を誤ることになる。なぜなら、「クリックしたけど好きじゃなかった」場合もあるから。ユーザーの嗜好を正しく捉えるためには、定量、定性データを多角的に分析する必要があるんです。

2つ目のポイントは、開発から評価のサイクルを速く回すこと。レコメンドアルゴリズムは、実際にユーザーに使ってもらい、ユーザーの行動やKPIがどう変わるかを見ることで評価を下さなければなりません。その中で、モデルの改善余地を特定し、開発につなげていくことが重要なんです。『TELLER』のプロジェクトではスタートから約2ヶ月でABテストを開始し、改善のサイクルを回していました。

最後のポイントは、デプロイ後も継続的に改善できる仕組みをつくり、実際に改善し続けること。レコメンドアルゴリズムはデプロイして終わりではありません。改善のサイクルを回し続けるために、アルゴリズムのパフォーマンスを常にモニターし、改善に関する仮説出しと施策を打ちやすい基盤を構築してきました。

「良いコンテンツ」が正しく評価されるサービスを目指す

──プロジェクトは2020年の4月からスタートしたと伺っています。開始から約半年が経過しましたが、どのような成果が得られましたか?

蜂谷:サービスにおける重要なKPIが数十%改善しています。プロジェクト開始前に抱えていた、コンテンツのデリバリーに関する課題が解決し、サービスの満足度を支える屋台骨のような機能になったと感じています。

とはいえ、まだまだ改善の余地はある。さらにユーザーの満足度を高めるためには、コンテンツの連続性を高めることがポイントになると考えています。コンテンツは、どんどん短尺化していて、その最たる例が『TikTok』ですよね。1つのコンテンツが15秒とかなり短いですが、ユーザーの滞在時間は長く、満足度を担保できている。なぜならば、コンテンツに連続性があり「見続けてしまう」から。この連続性を生み出しているのも、レコメンドアルゴリズム。

『TELLER』はユーザーがずっと滞在したくなるような、コンテンツの連続性をまだ生み出せていません。言い換えれば、ここに伸びしろがある。Algoageの力をお借りして、チャレンジしたいことの一つです。

──他にAlgoageと共に成し遂げたいと考えていることがあれば教えてください。

ピックアップ 代表取締役社長 蜂谷宣人氏、ピックアップ CTO 中村智将氏

蜂谷:UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)の質の底上げにチャレンジしていきたいです。現在、徐々に社内ライターだけではなく、ユーザーにもコンテンツを投稿してもらっており、これからさらにその裾野を拡大していきたいと考えています。

その際に課題になるのが、コンテンツの質の担保。現在、コンテンツの質を評価する際の基準は、閲覧数や高評価をもらった割合などしかありませんが、今後は文章自体の良さなども評価の対象にしていきたいんです。“いい文章”が評価されるプラットフォームとしての認知が得られれば、“いい文章”を書ける人が集まってくると思いますし、コンテンツの質の底上げにもなる。

ユーザーの中には良いコンテンツを生むことができる人がたくさんいますし、そういった人が正しく評価されるサービスにしていきたい。そのためには、Algoageの協力が不可欠だと思っています。これからも良きパートナーとしてお付き合いさせてもらいたいですね。